盃に浮かぶは酒月
―――姫。
桂撫は盃に唇を付け、酒を、月を、ゆっくり喉に流していく。
……頭の奥で、何か熱いものが弾ける感覚があった。
―――…せ…。
一口飲む度に、少しずつ言葉が浮かんでくる。
それは、
―――…き……。
千年前に一度きり耳を掠めた、愛しい人の名…。
―――……え…。
頭の中が拓けていく。
風が駆け抜ける。
彼は盃を唇に添え、最後の一口まで飲み切った。
そして桂撫は思い出した。