盃に浮かぶは酒月
「…貴方はなんて愚かなお人なのでしょう…。」
「え………?」
とめどなく流れていた筈の桂撫の涙がピタリと止まった。
ふと、桂撫は、腕の中に違和感を覚えた。
「わたくしが千年間見続けてきた貴方様は……“そんなもの”を、わたくしと見紛うのですか…?」
気付けば、赤映姫は自分より離れた場所に立っている。
そんな馬鹿な。
彼女は私が抱いている筈だ。
ゆっくりと、自分の腕の中を見下ろす。
温もりと伽羅の香がしていた姫の姿の代わりに、そこにあったのは……
……自分が殺めた武将の骸。
死臭とつちくれの物言わぬ人。
「…っ!?」
咄嗟に骸を突き放した。
気が動転し、途方に暮れ、頭を抱える。
赤映は不気味なくらい穏やかな声で言った。