盃に浮かぶは酒月
荒んでいた。
かつて愛して止まなかった筈の民達の、死屍累々。
家も寺も廃れ、稔りの秋だというのに草木一本生えていない。
天上には輝く月…。
だが、それを包む雲は黒ずんで、空は墨を塗りたくったように見えた。
荒んでいた。
「こ、れは………。」
桂撫はゆっくりと目を見開いた。
今までなぜ…気付かなかったのだろう。
「これは……、私がやったのか……?」
あれから千年。
桂撫の歪んだ行動を律してくれる者など一人もいなかった。
自分の仕出かした取り返しのつかない惨事を目の当たりにし、桂撫は心の底から震えた。
……なぜもっと早く、過ちに気付かなかったのか。