盃に浮かぶは酒月


「…………帝。」


赤映が、彼を呼んだ。


罪無き人を殺め、穢れを消すどころか桂撫は……

…この世の随一の穢れの元凶となっていた。


「……そうか、だから……。」


だから自分は、美しい赤映姫を骸などと見間違えたのか。

身に染みた。
この世の穢れを全て吸った自分には、もう清い赤映を見ることは出来ない。


「……私が一人芝居を打っている間に、貴女は手の届かない人となってしまったのか……。

…何が穢れを消すだ。何が、貴女に相応しい男になる、だ…。」


桂撫に残ったのは、虚しさだけ。

赤映は何も言わなかった。
…いや、喋ったかすら分からない。

桂撫の目にはもう、荒んだ大地と廃れた骸しか映らないから。

清らかすぎる彼女はもう、手には入らない…―――。


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