盃に浮かぶは酒月



―――千年前、凛々しく…真っ直ぐな貴方様を一目見た時からずっと……。


桂撫は気付かなかった。

赤映が、穢れた彼の姿に一度として“穢れ”を見る目を向けなかったことを。

慈しみのこもった眼差しで、彼女は桂撫を一身に受け入れていたではないか。


「所詮、人と天人は結ばれぬ宿命…。

全ては、帝を巻き込んでしまったわたくしが悪いのですね…。」


赤映は身を屈め、崩れ落ちた桂撫を優しく抱きしめた。

桂撫の体が微かに震える。

そんな頼りない背中をそっと包み込みながら、赤映は囁く。


「この地で穢れる筈だったわたくしの代わりを、貴方様が引き受けてくださった…。

でも、もういいのですよ。
誰も笑えぬ世を見るのは飽いたでしょう?

…もうお眠りください。
わたくしの胸で永遠に、お眠りくださいませ…。」


優雅に伏せられた双眸から、透明な涙がこぼれ落ちた。


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