盃に浮かぶは酒月


―――


何十年前、いや、何百年前になるか。

まだ不老不死の力が無く、ただの人間だった頃の桂撫は、都を統べる帝だった。


厳格で、堅実。
少しの煩悩も無い、僧侶のような桂撫でも当時、ただ一人心奪われた女がいた。

竹取の翁と嫗のもとで暮らす、月すら光を失うという絶世の美女。

“姫”と呼ばれるに相応しい、浮世離れした女性。


姫はとても美しかったが、とても頑固だった。
翁、嫗と離れたくない彼女は、求婚してきた貴族に軒並み無理難題を課せ、追い返した。


その話は帝である桂撫の耳にも届き、どれほどの我が儘娘かをこの目で見たくなった。

しかし帝であろうと、姫との面会はなかなか叶わなかった。
翁が取り次ごうとしても、姫がそれを拒むのである。


仕方なしに、桂撫はある月夜の頃、こっそりと姫の部屋を訪ねた。


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