盃に浮かぶは酒月
「赤映…、聞いてくれ…。」
桂撫は手を伸ばし、彼女の頬に触れようとした。
その目には、美しい天人の姿がはっきりと映っている。
―――私は心から…貴女を……。
言葉を紡いだのと、赤映に触れたのは同時だった。
「“あ”………。」
そこで、桂撫の手が、消えた。
赤映に触れるより僅かに早く、指先も手首も腕も、みるみる金砂となって崩れ落ちた。
声も発せられなかった。
“喉”が無い。
手と同じく、金の砂に変わっていた。
「…………。」
桂撫は自分の体の異変に気付いていた。
……が、見ようとはしなかった。
代わりに、出ない声で赤映への想いを伝える。