盃に浮かぶは酒月
「貴女が噂にのぼる姫か。なるほど、公卿達が夢中になるのも頷ける。…美しいお方だな。」
桂撫は何とも素直に、そしてハッキリと姫の美しさを褒めた。
帝ならばもう少し遠回しに気障なことを言うのかと思っていたらしく、姫は毒気を抜かれたように言葉を失ってしまった。
しかしここは慣れたもの。
すぐに表情を優雅なものにし、
「帝直々のお褒めのお言葉、光栄にございます。」
ほんの少し、微笑んだ。
その微かな表情の変化だけで、桂撫は軽い目眩を起こした。
何と美しいことか。
こんな僅かな微笑が、こんなに魅力的なのか。
もし満面の笑みなぞ見せられたら、あまりの衝撃に心臓が潰れてしまうのではないか。
激しくなった動悸を覚られないよう、桂撫は何とか平静を装おうとした。