盃に浮かぶは酒月


「今、何故泣いていた?」

桂撫は、姫の涙の理由にいたく興味があった。

対する姫は、予想していなかったとは言え、帝に涙を見せたことが不覚だったらしく、言いにくそうに声を低くする。

「快く思われなかったのなら、申し訳ございません。何卒、ご容赦を。」

「いや、不快に思ったわけではないよ。むしろ初めて見た女の涙が、貴女のような美しいお方で良かったとすら思っている。」

またも素直な物言い。
その表情にはどうやら嘘は無いらしい。
しかし姫は照れることはせず、こっそり安堵の溜め息をもらした。


「私のような者で良ければ、訳を聞かせて貰えないか?」

桂撫は言った。

姫は「帝ともあろうお方が」と言いかけたが、少し考えを巡らし、言葉を待つ桂撫の顔を一瞥。


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