盃に浮かぶは酒月
「貴方様は、たいへんお優しい方とお見受けします。わたくしの涙の理由をお知りになりたいのなら、わたくしが何者であっても、受け入れてくれるのでしょうね。」
「何者?」と首を傾げる桂撫。
その言葉の意味はすぐに理解出来た。
姫の体が、淡い不思議な光を帯びている。
月光を浴びたような、金色の光の筋が姫の体を包み、彼女の瞳を妖しく煌めかせる。
彼女は、人間ではなかった。
「…妖怪か?」
桂撫が驚きつつそう口にすると、姫は一瞬だけ寂しそうな顔をした。
「わたくしは本来、月に暮らす者。“天人(てんにん)”と呼ばれる種族にございます。
…しかし地上にいる今、わたくしの身は日々穢れ、妖怪となりつつあります。
天上の月に比べ、この世はあまりに穢れすぎています…。」