盃に浮かぶは酒月


桂撫は、姫の言葉を否定出来なかった。

帝となった自分の目から見ても、この世は酷く醜い。

盗みや殺しは後を絶たない。
貴族は貧しい者を虐げる。
国のあちこちで戦は起き、その度に罪無き命が散っていく。

清らかな天人の彼女からすれば、この地上に足をつけた日から、命を縮めていたのだろう。

哀れとは思わなかった。
代わりに、申し訳なさで押し潰されそうになった。


「…済まない…。」


深々と頭を下げた桂撫に、今度は姫が驚いた。

「何故、貴方様が頭を下げるのです?」


「帝とは国の主。その私が、国の穢れを何ひとつ消し去れていないのはおろか、皇族…私の身内ですら、権力争いが絶えぬ…。
天上の方から見れば、我らは何と醜い生き物なのだろう…。」


ついに桂撫は、片膝を折ってしまった。


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