盃に浮かぶは酒月
「貴女は私が憎いだろう。
貴女の体を蝕む穢れは、全て私の責任だ。」
「…………。」
姫はただ不思議そうに眺める。
この男は何故、妖怪である自分に頭を下げるのだろう。
人間のくせに。
「貴方様が謝ったところで、この世の穢れは無くなりはしませんわ。
何故わたくしのような者にそこまでなさるのです?
帝ならば民のため、妖怪を早う討たれませ。」
姫の口調はどこかからかいを含んでいる。
しかし桂撫はなおも項垂れたまま。
「この世の穢れのせいで苦しんでいるのは貴女だ。その貴女を討つなど、私には出来ない。例え貴女が妖怪でも。
…殺めたくない…。」
悲痛な声。
桂撫が、そこらの人間よりは情緒のある、感傷的な男だということは概ね察しがつく。
が、この言い方ではまるで…