103回あなたを殺します
ゆるやかな波の音が、この凜とした空間に響きわたる。
いつからだろうか…。
いつの間にか僕の隣には一人の女性が立っていた。
月の明かりで艶やかに輝いた美しい黒髪。
憂いを帯びた優しい顔立ち。
不自然とまでいえるほど蒼白な肌の色。
人形のような美しさと表現することが、ここまで合っている人はなかなかいないだろう。
だからといって決して冷めた表情をしているわけではない。
むしろ優しそうで暖かみがある表情だ。
月の明かりでこの女性はよりいっそう綺麗に輝いていた。
その彼女はどこか遠く…
ここではないどこか遠くの…。
僕が何日かけてもたどり着けないくらい遠くの海を見つめている。
まるで海に恋をしたかのように…。
僕はというと…
きっと
この女性に恋をしているのだろう。
そしてこの女性もまた…。
僕とこの女性は愛し合っているのだろう。
なんとなくだが分かる。
そんな気がする。
しかも確実に。
その考えを心の中で駆け巡らせても何も違和感はないし、何よりこの女性がとなりにいて僕の心はとても満たされている。
少なくともそれは確かな事実である。