カラー オブ ヘヴン
まあ、七年も放っておけばこうなってしまうのも当たり前か。
「写真、ずいぶん色褪せちゃったなぁ」
父が愛用していた机の上に、小ぶりの写真立てが置いてあった。
そこには、まだ若い面持ちの父と、幼いあたしがすまし顔で並んでいる。
あたしの五歳の誕生日に、街の小さな写真屋で撮ったものだ。
父と写真を撮ったのは後にも先にもこの一枚だけ。
写真立てを手にとって、ふうっとガラスに息を吹きかけて埃を飛ばす。
「お父さん、何で死んじゃったのよ……」
あの日、父は店を閉めた後、週に何度か出かけるバーへいつものように向かって行った。
ただ一つ、いつもと違っていたことがある。
いつもなら、家で留守番をするあたしに、戸締りはしっかりしろ、誰が来ても鍵は開けるな、とだけ言って出かける父が、その日は余分に声をかけて出て行った。
『もうすぐ、この街から出られるかもしれないぞ。だから良い子で待っていてくれ』
その言葉を聞いたあたしは、この物騒な街から出られるかも知れないということが嬉しくて、笑顔で父を見送った。
父のどこか浮き立つような後ろ姿は、今でも覚えている。
結局、それが父との最後の会話になってしまったのだが。