カラー オブ ヘヴン
「……終わったね」
ママが静かに言う。
先程までうるさいくらいに聞こえていた音も、声も、ぱたりと聞こえなくなっていた。
「あたしが見てくるから、あんた達はここに……」
ママが言い終わらないうちに、シャオファが飛び出して階段を駆け上がる。
「シャオファ!あんた、もし感染ったらどうすんだい!!」
ママの言葉も無視して、二階の一番奥にある彼女の部屋へと全力で走っていた。
バタン、と乱暴に扉を開けると、ローズの香りが鼻をつく。
室内は、カーテンは引きちぎられ、シーツや衣装があちこちに散乱し、まるで強盗にでも入られたかのように荒れ果てていた。
奇麗好きで、いつもお姫様の部屋のように整えられていたかつての部屋の様子は微塵もない。
その室内の中心、毛足の長い白の絨毯の上に、彼女は横たわっていた。
「姉さん……」
抱き起した彼女の顔は、先程まで奇声を発していた人物とは思えないほどに安らかな微笑みを携えていた。
本物のように彫り出された薔薇のキャンドルが辺りに散らばり、自分の腕の中の女性がまるで眠り姫のようにも見えた。
「本当に、そんな顔するんだね、この病気は」
ママはシャオファの腕から女を受け取り優しく抱き抱えながら、静かに、静かに目を閉じた。