カラー オブ ヘヴン
「……本当にくだらねぇな、この国は」
火葬場へ向かう最中の車内で、ディンはぼそりとそう呟いていた。
先日、ロンシャンの壁で発見された身元不明の死体を火葬場へ運んでから、さほど時間も経たないうちに、ディンは再び火葬場へと向かっていた。
「火葬場のオヤジとも、随分仲良くなっちゃいましたよねぇ」
どうやらディンの呟きが聞こえていないらしい彼の部下が、冗談めいた笑いと共にハンドルを左に切る。
この日、彼らが火葬場へ向かうのは、もちろん身元不明者の死体を焼却処分するためであったのだが、いつものようにロンシャン絡みの死体ではなかった事がディンの気を少しばかり波立たせていた。
「でもまぁ、久々ですよね、こういうケンカの後始末っていうのも。所轄に任せっきりでしたもんねぇ」
「……ケンカ、ね」
何気なく言う部下に、ディンは煙草の煙を機嫌悪そうに吐き出した。
お前にとっちゃあ、これがただのケンカか。
内心で毒づきながら、ディンは思う。
これは、立派な民族闘争だ。
今、ディンたちの乗る搬送車の荷台に乗せられているのは、ワ系の青年であった。
正確に言えば、身元不明でも何でもない。
ワ系であるという理由だけで、家族の元へも帰してもらえず、『身元不明』として処分されてしまう青年。
この青年が、居酒屋でトウ系の若者たちにちゃちな因縁を付けられたのが事の発端だった。