カラー オブ ヘヴン
その居酒屋は、街でもトウ系の者が集まる事で有名な店であったのだが、ワ系の青年は職を探して、国の最果てから近頃移住してきたばかりだったらしい。
ビールと少しの料理をオーダーした青年は、料理が運ばれて来るまで、と、故郷に残してきた両親と妻に電話を入れることにした。
運悪く入った居酒屋で、運悪く店の公衆電話の近くに居たトウ系の若者たちに、運悪く聞かれてしまったのだ。
青年が、ワ系の言葉で話しているのを。
その後は、店から引きずり出され、汚い言葉を浴びせられ、殴る蹴るの暴行を加えられた挙句、財布からなけなしの現金すら奪われた様だった。
ディンたちが現場に到着した時には、青年はゴミ捨て場のゴミに埋もれ、既にこと切れていた。
現場に居合わせた者から事情を聴けば、それは酷い言われ方をしていたのだと言う。
青年は、国の両親と妻を何とか養おうと、少しでも食いぶちのあるこの街にやって来たらしい。
聞けば、妻のお腹には新しい命が宿っているのだというではないか。
それなのに、だ。
居合わせた他のトウ系の連中は、聴取をするにも『関わりたくない』と言わんばかりに至極簡潔に話を終わらせようとする者や、中にはワ系なのだから仕方がない、とまで言う者すら居た。