カラー オブ ヘヴン
「それより厄介なのは、龍の右腕の吾妻。相当キレるみたいなんだよね、色んな意味で」
「……そりゃヤベェな」
半ばうんざりした表情で、ハオレンは今度こそハサミを動かす手を止めた。
「ま、君もヤバいけどね」
鏡越しに目を合わせ、一層爽やかに笑ってみせるユンアンの髪に、ハオレンは再びハサミを入れてわざとらしくざっくりと切り落とす。
「あ、そこ、もうちょっと短く」
他と比べて短くなりすぎた髪の一部分を目で指して、ユンアンが言う。
どうやら、この男の方が一枚上手のようだ。
諦めたハオレンは、深いため息を吐きだして、仕方なくハサミを動かし始めた。
「で?どうする」
「ま、しばらく様子見ってとこかな。『外』の連中の動きも気になるしね」
綺麗に整っていく髪を満足そうに見つめながら、ユンアンはにこりと笑んでみせる。
この男の笑顔には、胡散臭さが無い。
かと言って、心から笑んでいる訳でも無い。
しかし、彼は今まで一度たりとも、ハオレンに嘘を吐いた事は無かった。
不思議な男だ。
鏡の中の男に、ハオレンはほんの僅か、微笑みかけた。
「お前が言うなら、そうした方がいいんだろうな」
「……ふふ。ありがとう。君に信用してもらえるなんて、光栄だなぁ」
わざとらしい物言いに、少しばかり怪訝な表情を見せたハオレンだったが、無言でハサミを動かし続ける。
埃臭い理髪店には、その後しばらく、ハサミの音だけが響いた。