カラー オブ ヘヴン
knowing
その夜、ディンはいつにも増して不機嫌そうな様子で警察署へと戻って来た。
煙草をくわえながら、苛々とした足取りで自分のデスクへずんずんと進んで行く。
その様子を視界に捉えた彼の部下が、大げさな表情を浮かべながら近寄って来た。
「どこ行ってたんですか、警部。あ!また!署内禁煙っていつも言ってるじゃないですか、もう!」
くわえた煙草をひったくって自分の携帯灰皿に押し付けるいつもの部下に、ディンはあからさまに舌打ちをする。
「ちょっと野暮用だよ」
ぶっきらぼうに答えると、ディンはデスクの上に無防備に置かれた財布と腕時計、それから煙草の新箱を鷲掴んで、踵を返した。
「またどちらか行かれるんですか?」
「ちょっと野暮用」
右手の小指を立てながら言うディンの後ろ姿に、部下は深いため息を吐いた。
夜の街は、昼よりもさらに乱雑さが増している。
酔っ払いながらくだを巻いている若者グループを横目に通り過ぎながら、ディンは繁華街から更に奥へと進んで行った。
繁華街から少し外れた薄汚い路地には、何の店かも解らない如何わしげな建物が建ち並んでいる。
路地のあちらこちらには浮浪者がすることもなく死んだように座っているし、NPAの力が及ぶこの区域でさえ、隅々まで整備が行き届いていない。