カラー オブ ヘヴン
「いいかい?」
男は全身ずぶ濡れで、どうやらこの雨に降られて雨宿りがてらこの店にやってきたようだった。
この辺りでは見ない顔で、一見の客であるように見える。
「ああ、どうぞ」
そっけなく答えて、室内まで入って来た男にタオルを渡す。
だけど内心では、少しほっとして胸をなで下ろしていた。
「急に降られちまってな。助かったよ」
わしわしとタオルで頭を拭きながら言う男は、やさぐれた薄い笑みを漏らした。
男の顔つきは引き締まってはいるが、細い目の奥からは、堅気のものとは思えない雰囲気が感じられる。
いつもなら、一見の客が来た時にはトウジに一報を入れておくのだが、今日はそんなこともどうでも良くなっていた。
この、胸の奥がざわざわと締め付けられるような感覚を忘れさせてくれるなら、誰でも良い。
「お兄さん、ウチ、初めて?」
ジーンズを脱ぎ、ベビードール一枚になったあたしは、ベッドに座る男の横に腰を下ろしてそう尋ねる。
どこから来たかなんて興味がある訳ではないけれど、一応の話題作りだ。
「この店って言うよりは……この街が、初めてだな」
「え?もしかして、外から来たの?」
「ああ」
その言葉に、あたしは思わず反応してしまった。
外から来たなんて言う客は、この男が初めてだ。