カラー オブ ヘヴン
monochromatic memory
ロンシャンタウンの片隅に、小高い丘がある。
街を一望できるその丘は、同時にロンシャンの壁の向こう側も伺わせてくれる。
壁の向こうには、近代的な家屋や高いビルが立ち並び、かつてこの国が混乱していたとは思わせないほどに区画整理が進んでいる。
それとは対照的に、壁の内側は雑居ビルや小さな民家、古いアパートがひしめき合っており、未だ国の混乱時代の名残を残していた。
ぎゅうぎゅうに詰め込まれたような建物群の隙間には細かい路地が無数に分岐しており、初めて訪れる者にしてみれば、街はそれ自体が巨大な迷路そのものである。
とは言っても、ロンシャンタウンに入り込もうなどと考える者は、この巨大迷路にその身を隠そうとする様なならず者が大多数で、彼らにとってみればそれが逆に好都合なのであるが。
「神様、今日も一日無事に過ごせますように」
ロンシャンタウンで唯一緑を覗かせるその丘に、朽ちかけた教会が街を見下ろすように残されている。
既に廃墟である教会の天井は、所々に穴が開いており、その隙間から筋のように日が落ちて、薄暗い礼拝堂に気持ちばかりの光を与えている。
その光に照らされた、雨の侵食を受け顔の形が分からなくなってしまっている貼り付けのキリスト像の前で、一人の少女が跪いて祈りを捧げていた。