カラー オブ ヘヴン
「先生が急に苦しみ出して……え?症状?いや、だから……!」
受話口の向こうから聞こえてくる質問に苛々しながら、秘書は苦しむ男に目を向けた。
だから、異様に苦しんでいるんだとさっき……
ほんの数秒前に状態は伝えたはずなのに、と思った所で、秘書は言葉を失くして携帯電話を持った手をそのままに、その場で硬直した。
「くっ……ふ……く……くけ、けけけけ」
笑っていた。
苦しんでいたかと思えば、今度は何が可笑しいのか、奇妙な声を上げながら笑い始めていたのだ。
どうしたというのだ。
何かの病なのだろうか?
だとしても、こんな妙な症状は聞いたことが無い。
まさか、気が触れたか。
男の異様さに恐怖すら感じ、しばし固まったままの秘書だったが、我に返って受話口に向かって叫ぶ。
「頼むから、すぐに救急車を出してくれ!!」
人気のないメインストリートに、男の奇妙な笑い声が木霊していた。