カラー オブ ヘヴン


「さて、と」


ゆっくりと立ち上がり、あたしはキリスト像に背を向けて教会の扉へと足を動かす。

扉に手をかけ、力を込めて押し開けると、外の光が眩しいほどに屋内へと注いだ。

ほとんどが朽ちかけているこの教会で、この扉だけは威風堂々とその存在感を前面に押し出している。
他の所が酷い有様なので、余計にそう思えるのかも知れないが。


だけどあたしは、朽ちかけた中で一際『生』を思わせるこの一枚板で出来た扉が好きだ。


何故この教会がこのまま残されているのかは知らないが、あたしの一日は顔の分からなくなった『彼』の前に跪いて祈りを捧げることから始まる。


このロンシャンタウンで、今日も無事に生きて一日が過ごせるように、と。


ロンシャンの壁で囲まれたこの街には、真っ当な秩序というものが存在しない。

強盗や殺しは日常茶飯事。

些細な言い争いなら可愛いもので、ヒドイときには民家の建ち並ぶ狭い路地で銃撃戦、なんていうこともしばしばある。

昔何かの本で読んだことがある、『スラム街』と呼ばれる区域とさほど変わりが無い。


警察の関与が無いのだから、当たり前と言えば当たり前なのだけれど。


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