カラー オブ ヘヴン
Dearest
その少女と初めて出会った時、俺は何故だか、守ってやらなきゃならないような、そんな気がして仕方がなかった。
男が怖いと涙を流す目の前の少女が、たまらなくか弱い存在に思えた。
龍上会という黒い組織に身を置きながら、自分はどうにかしていると嘲笑もしたが、それは頭ではどうにもならない感情で。
それを知ったら。
お前は、笑うだろうか。
「イオリ……」
薄暗いイオリの仕事場。
濡れたシーツの上に横たわる彼女の、ほのかに暖かい手をさすりながら、トウジは彼女の名前を呟いた。
彼がここへやってきたのは、太陽が地平線から顔を覗かせた朝方の時間であった。
「ごめん、ごめんな……」
悲痛な面持ちでしきりにそう呟きながら、トウジは目を閉じた。
何故、こんな事になったのか。
どうして自分は、居てやる事が出来なかったのか。
問い詰めても答えの無い自問自答が頭の中を支配する。
そして思い浮かぶのは、あの不気味な『上司』の顔だった。
「トウジ。例の件はどうなっていますか」
定例会合を終えた龍上会の本部、龍トウキチの屋敷では、定例会合の後に決まって行われる宴会が催されていた。
その席から逃げるように屋敷の軒先で煙草をふかしていたトウジに、黒いスーツの男が話しかけた。