カラー オブ ヘヴン


しかし、よく助かったものだ。
ベビードールが泥で汚れている所を見ると、外に出て助けでも呼んだのだろうか。

「俺を、呼んだかな……」

口に出た言葉は、エゴ以外の何ものでもない。
こんな状況でそんな考えが浮かぶなんて、と自嘲していると、握り締めていたイオリの手が、僅かに動いた。

「う、ん……」

「イオリ!おい、大丈夫か!」

握っていた手を離し、顔を覗きこむ。
まだうつろな瞳をしているが、頬の赤みが少しずつ戻ってきている事に安心した。

「トウ、ジ……?」

「おう、俺だよ。どこも痛いとことか、ねぇか?」

「あたし……生きてる……」

「ったりめぇだろ!死なれたら俺が困る!」

「ふふ……そう、だよね。場所代……あげれなくなっちゃうもんね……」

そんな事じゃ、と言いかけて、トウジは言葉を呑み込んだ。
自分のこんな気持ちなんて、伝えてはいけない、と。ずっとそうして、これからもそうするつもりでいた。
ただ、のらりくらりと甘い言葉を吐き、疑似恋愛のように偽装して。
娼婦と龍上会の下っ端なんて、そうして繋ぎ止めていなければ成り立たない、脆くて不確かな関係なのだと、必死に言い聞かせていた。

けれど、こんな弱々しい表情を見せられては。



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