バレンタインシンデレラ
冬月くんは私の持ったケータイを指して聞いてきた。
私は一瞬びっくりしたけど表に出さないように気をつけた。

「ううん。ちょっといじってただけ」
「そっか。邪魔しちゃったかなと思って」
「全然そんなことないよ」

私はケータイを閉じてPコートのポケットにしまった。
わーやばい。
冬月くんと喋ってるよ私…。

「南さんはよくメールするの?」

初対面同士の会話によくある少し気まずい間を置いてから冬月くんは口を開いた。
冬月くんの口から“メール”という言葉が飛び出すと、バレてるわけないけど、なんとなくビビっちゃう。
私は慎重に言葉を選んで答える。

「まあ…でもそんな頻繁にってわけではないかな」
「そうなんだ」

………。

「あ、えっと冬月くんは?」

思いのほか薄い反応に焦っちゃって思わず聞き返す。
初対面の人との会話での常套手段にかって出てみた。

「うん、よくするね」
「へえ」
「…ていうか、してた」

過去形?

「あれ、掲示板あるじゃん。うちの学年の。知ってる?」
「あ、ああ、うん」
「そこで知り合った子とよくメールしててさ」
「はあ…」
「で、結構仲良くなったからバレンタインデーに会おうって約束して。でもちょっとしたトラブルが起きて実際その日には会えなかったんだ。だからまた今度会う約束を取り付けようとしたら、どういうわけかもう会えないって言われて。そしたら次の日、アドレスを変えられたみたいでメールが送れなくなっちゃってさ」
「そうなの…」

それ以上その話を広げないで、よりによって私の前で…。

「で今その子を探してるんだ。そういうわけで突然南さんに変な質問をしにいったんだけど」
「ああ、そうだったんだ」

知ってる。
まさかあんな大々的なことをするとは思わなかったよ。

「南さんはさ、どうしていきなりその子が僕と会うのを拒んだんだと思う?それまで会いたいって言ってたのに」
「さあ…」

私に聞かないでよ~。
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