バレンタインシンデレラ
冬月くんがそう言うと、槙くんはきょとんと目を丸くした。

「あれ、知らない?」
「何を」
「この前の体育の授業中、佐藤さんが一組の教室で誰かのカバンあさってケータイ出して見てたんだって」
「何それ」
「噂だけど。もしかしてそれゆっきーのだったんじゃね?」

冬月くん、一旦固まりうなだれる。

「そういうことか…」

槙くんはその冬月くんの姿を見ながら呟くように言った。

「ごめん…」
「もっと早く言ってほしかったな」
「すいません」
「いいよ。メル友の正体が佐藤さんじゃないってわかってほっとしたし」
「本当すいませんでした。…あのさあ、あの子って結局どうしたの?名簿に一人だけ残った、えっと…南さん!その子はlovefoxxxじゃないの?」
「違う。聞いたけど否定された」
「そうなんだ…」

それから気まずい雰囲気と沈黙が少し流れ、槙くんがおずおずと口を開いた。

「じゃあまだ見つかってないのかあ…。明日だよね、ホワイトデー」
「うん、悪いね、協力してもらったのに…」
「ああ、いいけど別に。チョコ食っちゃったし…」

……………。

すると冬月くんは何かが吹っ切れたみたいに大きくため息混じりに言った。

「いいんだ、もう」

槙くんはちょっと驚く。

「えぇ?何が」

冬月くんはそれには答えず、カバンを掴んで立ち上がる。

「いろいろ付き合ってくれてありがと」
「何?いきなり」

槙くんは訳がわからず目をぱちくりさせているけど、冬月くんは何も言わずただ、にっと微笑み教室を後にした。

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