ディア フレンド
しばらくの間、有李栖の嗚咽だけが
病室を支配していた。
渉を始め、喋る人はいない。
アタシは有李栖に抱き締められ、
動けずにただ黙って有李栖が泣き止むのを待つ。

5分くらいしたであろうか。
有李栖がゆっくり顔を上げる。
目は真っ赤で充血していた。

「私が泣いてたらいけない・・
ごめんなさい・・・」



「謝らないで・・アタシが好きで
やってることだから。」


「でも・・・杏南が倒れてしまった・・
それは私の力が弱いせい。
その事実は変わらない。現に杏南に
苦労ばっかり掛けている・・・」


声が少し掠れている。
有李栖はただ自分を責め続ける。
渉とハヤテ様も何も言わないで黙って座っている。
何て言ったらいいのだろう・・
言葉が上手く思い浮かばない。


「アタシの自己管理も
行き届いてなかったの。
選手なのに・・・だから有李栖のせいじゃない。
アタシが晩ご飯ちゃんと
食べていたらよかった話。」


「なぁ・・俺が言えることじゃないかも
しれないけど。
あまり自分を責めてもしょうがねえよ。

起きちまったことは・・・さ。
次、気を付けようぜ。

人間だから失敗はある。
それを経験して成長するしさ・・・」


渉も気を利かせて慰める。
自分なりに元気になって貰いたかったのだろう。
有李栖は目を擦りながら微笑む。

「ありがとう・・
中総体、頑張って。
絶対応援行くから。」


「うん。体調整えないとね。」

渉のお陰で空気が変わった。
ホントに有李栖が元気になってよかった。
その後、面会終了ギリギリの時間まで
病室に有李栖たちは居てくれた。

幸い、妖気は全く感じられなかった。
アタシのとっても束の間の休息だった。
妖気は感じなかったが、雨の匂いは感じた。

雨、激しくなるな・・・
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