ディア フレンド
わたしは厨房へ行き、料理を大広間に運ぼうとする。
ポンっ。急に肩を叩かれる。首だけ向けるとトゥラムと杏南が立っていた。
わたしはいつもの口調を思い出して話す。

「どうしたのですか? そんなに慌てなくてもちゃんと皆の分ありますですよ。」

「うん、それもあるんだけどね、手伝おうと思って。それ持っていくんでしょ?」

そういうと杏南はわたしの目の前にある料理の皿を両手に持ち、若干小走りで厨房を後にする。この子は・・・わたしも料理を両手に持っていく。
トゥラムとすれ違い様に目が合う。


「杏南様は・・波留華様に似ておられますね・・・」

わたしは軽く頷くと皿を持って行く。波留か・・あんまり思いたくなかったな・・・
あの光景―。わたしは片時も忘れたときはない。手に残る感触―、
首を左右に振り、記憶を忘れようとする。そして、大広間に入っていく。
案の定、ハヤテと渉が座って談笑していた。最近、剛は帰って来ていない。
大方、合宿であろう。わたしは気にせず、テーブルに乗せる。

「有李栖、今日はハンバーグなんだね。珍しいね。」

「いえ、渉様のリクエストなのですよ、」


「あれ? 俺、有李栖に言ったっけ?」

「あっ・・えっと、杏南に聞いたのですよ。杏南は今日初めての修行で夕飯はわたしが作ったのですよ。」

2人は納得してくれたみたいだ。わたしがあのときの会話を聞いていたなんて言える訳がないのだ。わたしの能力は巫女の霊力だけではない。
人の気持ちを読み取ることが出来るのだ。本気になれば洗脳だって出来る。
この能力のお陰でどれだけ傷付いたか・・・
わたしが少し暗い顔をしていると、杏南がギュッと背中に抱きついて来た。
正直、接触はあんまり慣れていないのだ。だから、反応に戸惑ってしまう。

「落ち込んだときは誰かに抱き締めて貰うと安心するんだ☆だから、元気出してっ♪」


この子は雰囲気で人の気持ちが分かるのだろうか・・・人の体温ってこんなに温かいんだ・・わたしの目には涙が少し溜まる。
死にたくないな・・・別れが辛くなってしまわないか・・

「ありがとなのです。でも、わたしもお腹ペコペコなのです」

「あっ。ゴメンね、じゃあ食べようか!」


< 18 / 182 >

この作品をシェア

pagetop