ディア フレンド
渉はいつも美味しそうにアタシの作った料理を食べてくれる。
でも今日は有李栖が作った料理。気付いてくれる訳・・ないよね?
少しだけ期待してたんだけどな。そんな都合よくはないよね・・
あれ?・・なんか胸がギュウってなる。
なんでだろう・・最近アタシは変だ。前はこんなことなかったのに。
紗羅のあの言葉からかな。頭からなかなか離れない言葉。

『意識すれば1人や2人いるでしょ?』


なんで渉の顔が出てくるんだよ・・渉はただの幼馴染み。
そしてアタシの親友。それ以上でもそれ以下でもない。
でもなんか胸のどっかで突っかかってる。よく分からない靄。
アタシは厨房に戻るまでの間。ずっと考える。
でも、すぐに着いてしまった。中に入ると有李栖が丁度冷蔵庫に何かを入れていた。
有李栖は入れ終わるとアタシに歩み寄ってくる。
何処となく心配そうにアタシの顔を覗き込んでくる。


「杏南。大丈夫ですか? 今から修行ですが・・」


「うん、大丈夫。今日はキイムでしょ? 薔薇園に行こう?」

アタシは有李栖に心配掛けないように普段通りに話す。
内心少し変な感じだったけど気にするほどのことではない。
有李栖は少し窺う素振りを見せたがさほど気にしていない様子だ。

「じゃあ、先に行ってて下さい。着替えてくるのです、先に呼んで置いて下さいね。」

有李栖はそういうと先に厨房を出る。そうか、一応巫女の衣装着ないといけないのか。
これってはたから見てるとただのコスプレマニアだよね・・・
歩きながら自分の格好を改めてみる。はぁ・・
まぁ、細かいことはもう気にしないことにしよう。

ガチャッ。ギギー。アタシは一足先に外に出る。
空は茜色に染まっている。今は春、だから日もまだまだ長い。
風が心地よく頬に当る。アタシを慰めてくれるの?
ふと周りを見ると小さな精霊や妖怪【スポク】がアタシを見ている。
修行の成果か段々そういうものが見えてくるようになって来た。
薔薇園までゆっくり歩いていく。いつ見ても綺麗だな・・
まるで絨毯のように赤やピンクや青が広がる。癒されるというか・・

アタシは薔薇園の中央に立つ。そして両手を広げ唱える。
心を落ち着かせるため、静かに目も閉じる。

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