ゴキーラ
しかし、彼女にも彼の気持ちは理解出来なくもない。こんなに長く彼の助手を勤めて来たのだから。
それは彼女が誇りに思っていることでもあった。
ジョンソンは国から補助を受けて、人類のためにゴキブリ研究を進める学者たちの草分け的存在でもあり、この世界では彼の名を知らなければ、胸を張ってゴキブリ研究家とは名乗れないと言われるほどの人物だった。
ジョンソンは大学でバイオテクノロジーを選考し、卒業後は単独で研究を始めた。
彼がゴキブリについて研究することにしたのは「研究材料としてもっとも身近にいてコストをかけずに入手出来るから」だった。しかし、世間では、危うくなりつつ有る地球での人類の生き残りをかけてのプロジェクトだと思いこまれがちだった。つまり、ジョンソンは、ゴキブリの生命力の強さをいかして、人類を救おうとしているヒーローと見なされているのだ。彼自身もそれは重々承知している。それどころか表向きは、まさしくそのヒーローを演じていた。
しかし、彼に憎しみさえ覚えようとしている今の彼女の目から見れば、ジョンソンはただのいい子ぶった詐欺師のゴキブリヲタクに過ぎないのだった。
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