finder
知らない曲だった。
奈都くんは弾きながら速度標語を教えてくれた。
「ラルゴ、ゆっくりと」
指の動きとともに曲は徐々に速くなっていく。
アダージョ、ゆるやかに。
アンダンテ、歩くような速さで。
そこからモデラート、アレグロ……
「んで、これがヴィヴァーチェ。生き生きと、きわめて速く」
奈都くんは手を止めた。
「間宮って泣き虫なのな」
そうだよ。
わたし、いつの間にか泣き虫なんだよ。
絵美ちゃんと話すようになってから、ゆっくり時間が過ぎていって、だんだん自分と向き合えるようになって、友達が増えて、どんどん時間が速くなっていった。
ラルゴ、アダージョ、アレグロ、そしてヴィヴァーチェ。
奈都くんはホントにずるいよ。
絶対わざとなんでしょ?
奈都くんは再び同じ曲を弾き始めた。
だんだん速くなって―…
「この後、知ってる?」
知らない。
知らないよ。
「プレスト、急速に」
それから突然、
「テンポ-プリモ、はじめの速さで」
ラルゴに、戻った。
「本題、いくか」