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……深山?


「黒松先生、そう思いませんか?」


泰樹さんはおじいさんに笑いかけた。

おじいさんは何も言わずに頷いた。


「おじさん、先生だったんですか?」


おじいさんは目を細めて懐かしそうに言った。


「えぇ、数学の教師でした。栗本は昔の教え子なんですよ」


驚いた。

だけど、すんなり納得できた。

おじいさんになら数学だって習ってみたかったかも……。


「黒松先生はやっぱり先生を辞めても先生ですね。また教え子がいるし」


そう言って、泰樹さんはわたしを見た。


「だとしら、彼女が最後の、教え子でしょう。ずいぶん長く生きました」


「何言ってるんですか先生、まだまたこれからでしょ?」


おじいさんは答えなかった。


いつもは二人のテーブルを、今は四人で囲んでいる。

先ほどまでココアからたっていた湯気はだいぶ落ち着いている。


「おじさん、相談、いいですか?」


わたしがそう言うと泰樹さんは気を利かせたのか、立ち上がった。


「それじゃあ先生、また来ます」


泰樹さんはわたしと奈都くんに軽く手を振って出ていった。


「俺、コンビニ行ってくるから」


そう言って奈都くんも席を外してくれた。

おじいさんと久しぶりに二人きりになる。


「久しぶりですね、お嬢さんの話を聞くのは」


おじいさんの微笑みがなにより嬉しかった。

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