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やさしさへの奏鳴曲
黒松さん…?
紅茶よりも緑茶のほうが似合いそうな名前だ。
しゃべり方、絵本とかに出てくるおじいさんみたい。
いかにも古そうな時計の音が静かな店内に響いている。
「ここ、古本屋さんですか?」
気になっていたことを聞いてみた。
黒松さんはやさしくうなずいてくれた。
「何か探してるの?」
そう聞かれると困った。
うっかり入っちゃっただけだし。
「…なんとなく、入ってみたんです、ここ」
おじいさんは怒らなかった。
かわりに嬉しそうに笑って本棚の奥へ歩いて行った。
わたしはどうすべきか、一瞬、迷って着いていった。
「ああ、お嬢さん、本は好きですか?」
正直、あまり好きではなかった。
学校では図書室にはめったに行かないし、自分で本を買うこともない。
わたしが黙っていると、おじいさんは一冊の本を差し出した。
「読んでみませんか?本を」
薄くて、開くとかわいい絵がたくさん載っていた。
「…絵本みたい」
「絵本ですよ」
「…ほしいな」
この本なら読めそうだった。
学校で読むのにいいかもしれない。
そうすれば、休み時間に目のやり場に困ってうつむかないですむ。