菓子と花束
第一章 タルト
その喫茶店は、磨き込まれた調度や振り子時計を見る限り、店を構えて30年近く経っているようだった。
床もよく磨かれ、少しではあるが立つ者を映している。

店内は仄暗く、小さな音でクラシックがかかっている。

六人掛けのカウンター席が入口の左手にあり、右手にはテーブル席が四つ―そのうち二つだけが窓際に―ある。
窓からは学生街の、賑やかだが地味な路地が見える。秋には銀杏が、冬には少しの雪が、春にはツツジが、そして夏は蝉の声が、そこを彩る。

店の壁にはおとなしい絵が何枚か掛けられ、カウンターにはこまごまとした骨董品が並んでいる。

けれどもいちばん目を引くのは、何の変哲もないショウケースに飾られた、菓子である。

それらはすべてタルト。
甘く、少しかたく、ヴォリウムがある。華やかなものもあれば、地味なものもある。
タルトたちは静かに、来客を待っている。
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