ヒロシマ1945 綾美とまな美
最終章

田端産院に着いた途端に、綾美は産気づいた。

「早くベッドに横にさせて」

40代半ばであろう、女性の医者が健治とまな美に言った。

「広島市内で大爆発が起きたらしいから、今は私一人しかいないの。
あなた達にも手伝ってもらうわよ」


まな美は女医に指示を仰ぎ、テキパキ手伝っていたが、さすがに男性の健治は何をしていいか解らず、うろうろしている。


女医が綾美に話しかけた。

「綾美さん、大丈夫だからね、初産は大変だけど頑張るのよ、誰でもこうやって赤ちゃんを産んできたんだから」


そして3時間程経った時に、綾美は元気な女の子の赤ちゃんを出産した。


「まな美さん!『愛』が生まれたよ」

「綾美さん無事に生まれたね、かわいい!
私のお母さんなんだね。なんか不思議な気持ちだわ」

「広島の街の様子はどうなんだろう?」


綾美は健治に聞いてみた。

「情報が無く、よく解らないが、まな美さんの言う通りにさっき雨が降ってきたよ」

「先生お願いがあります、あの雨に濡れたら、放射能を浴びてしまい、人間の身体を蝕んでいくの。綾美さんを赤ちゃんを絶対外にやらないで下さい」

「私にも直感でわかるわ、あの雲、あの雨は危ないって。しばらくみんなで産院の中にこもりましょう」


産院の中でこもった、二日後の8月8日に日本の各都市に米軍のチラシが投下された。

チラシにはこう書かれていた。

日本の人々に

アメリカ合衆国はこのリーフレットで我々が言うことにあなた方の速やかな注意を向けるよう申し上げる。

我々は人類が発明した中でも最も破壊力のある爆弾を所有している。

我々が新しく開発した原子爆弾の一つ一つが巨大なB-29爆撃機が単一の任務で積載する爆弾の2000機分に実際に匹敵する。

この恐るべき事実はあなた方にとっては熟考するべきものであり、我々はあなた方の国土に対してこの兵器を使用し始めたところである。今だ疑いを持つならば、たった一つの原子爆弾が投下された時、広島で何が起こったかを聞いてみることだ。
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