ヒロシマ1945 綾美とまな美
夕方になり、綾美の旦那が納品先から帰ってきた。
「健治さん、お帰りなさい!」
「あぁただいま。お客さんか?」
健治はまな美のほうを見て、そう言った。
「ちょっと訳がありそうなので、休んでもらっているの」
綾美が健治に理由を説明した。
「まぁゆっくりして行きなさい。私はここの主の桜井健治だ」
「あっ小林まなみと言います!」
まな美は思っていた。五年前(2005年)に死んだ、私のお爺さんの名前と同じだ。
まな美のお爺さんは桜井健治で、その奥さんつまり私のお婆さんは、私のお母さんを産んで、直ぐに亡くなったって聞いたわ!
えーと、確か名前は綾美・・・
えー、そんなまさか。
でもお爺さんは、広島で呉服屋さんをやっていたって・・・
まな美が考えたように、桜井呉服店の健治と綾美は、まな美の祖父と祖母だった。
綾美のお腹にいる子はきっとまな美の母親だろう。
「私はどうしたらいいのかしら?
私はあなた達の孫よ、なんて言っても信じてくれる訳がない、でも黙っていたら、明日の原爆の被害に遭うかも知れない。
もし綾美さんが被害に遭ったらお母さんは生まれない。
お母さんが生まれなかったら、私は存在しなくなってしまう・・・どうしよう」
まな美は困った表情で、ずっと考え込んでいた。
「まな美さん、まな美さん!」
「あっ、はい!」
「思い詰めた顔をして、どうしたの?
何も出来ないかも知れないけど話しなら聞くよ」
まな美は意を決して、綾美に話す事にした。
「綾美さん、変な話と思わないで聞いて下さい」
「こんな時代だよ、どんな話を聞いても驚かないから」
「私は65年先の2010年から、来ました!
私自身も何で、この時代に来たのかわからないけど!」
「そ、それは又凄い話だね・・・あなた疲れているみたいね」
「ウソじゃないのよ、これを見て」
まな美は財布の中から、2010年のお札や携帯電話・免許証などを綾美に見せた。
綾美は思っていた!玩具のお金を見せて必死に話すまな美に、よほど大変なめにあったのだろうと。