アンダンティーノ ―恋する旋律 (短編)
見えるの?
 いつものユマだったら、そんなことは
絶対しなかったに違いない。

 気づかれるまで、しかも相手が不審そうに
声をかけてくるまで、ばかみたいに見つめ
続けるなんて。

 けれどどうしようもなかった。

 ざわついたコンサートホールの片隅。

 買ったばかりの追加公演リサイタルの
チケットを握りしめながら、ユマは凍り
ついていた。

 ひどく戸惑ったような顔をして、若い
男性が近づいてくる。

「あの……」

 低い声。

 でも柔らかな、まるでオーボエみたいな
響きだった。

 大学生くらいだろうか?

 細身だが、ユマよりずっと背が高い。

 視線をそらすにはもう遅すぎたし、
そうすることもできなかった。

 彼の瞳に映った自分が見える。

 ショートカットの小柄な女の子。

 その表情は思いきりぎこちない。
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