アンダンティーノ ―恋する旋律 （短編）

願い

「ショウコさんはルイ・マネが
　とても好きで……それでここに来た
　んです。

　彼女に会えるかもしれないと思って」

　ルイ・マネは世界的なチェリストだ。

　その演奏が聴けるのなら、それこそ
テストの成績なんかどうでもよくなる
くらいに。

　そしてハルキが好きだからという
理由で聴き始めたユマがたちまち
はまってしまうくらいに。

　だからこそ無理をして今日の公演が
来たのだし、追加リサイタルが決まった
と聞いて、あわててチケットを買ったの
だった。

「ショウコさんって？」

「兄の奥さん。
　
　彼女、趣味でチェロを弾くんです」

　テツロウは俯き加減でそう言うと、
少し頬を赤らめた。

　そのはずかしそうな口調から、彼が
義姉のことをどう思っているか、すぐ
わかってしまった。