アンダンティーノ ―恋する旋律 (短編)
「言葉にって……好きって言ったんじゃ
 ないの?」

「エルガー、知ってる?」

 ユマからようやく視線を外し、テツロウ
は自分の指先に目をやった。

「ショウコさん、エルガーのチェロ・コン
 チェルトが大好きなんだ。

 でも僕がやってるのはヴァイオリン
 だろう?

 だから『愛の挨拶』を弾いたんだよ、
 彼女の前でね」

 「愛の挨拶」はイギリスの作曲家、
エルガーの有名な小品だ。

 親しみやすく美しいそのメロディーは
有名で、ユマも知っている。

 そしてその曲こそエルガーが生涯愛し
続けた妻に捧げたものだった。

「それって……コクったも同然じゃ
 ない?」

「まあね。
 
 でも言葉にはできなかったわけだから」

 その後、テツロウは事故に遭った
のだろう。

 そして永久にチャンスを失ってしまった
のだ。
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