アンダンティーノ ―恋する旋律 (短編)
 テツロウがびっくりしたような顔で
ユマを見る。

 そのまま演奏をやめてしまいそうに
なったので、ユマは小さな声で
「続けて!」と注意し、またショウコ
に話しかけた。

「最後に会った時も、ちゃんと告白
 したかったのに、勇気がなくて、
 どうしても言えなかったそうです。

 翌日ホテルに行ったら、もうショウコ
 さんはウィーンを発った後だったん
 ですって」

 ショウコは目を見開いて、ユマの言葉に
聞き入っている。

――先生とどうしても合わなくて。

――体調も悪かったし。

――指を怪我したんだ。

――本当に何もかもうまくいかなかった。

 テツロウの思いは少し混乱している
みたいだったが、ユマは必死にそれを
つなぎ合わせようとした。

「その後、学校でもいろいろ問題が起きて
 ……先生と合わなかったんだそうです。

 体調も悪くて、そのうち今度は指を
 痛めてしまって、それで気持ちがひどく
 動揺して」

 そこでテツロウの声は止まった。
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