アンダンティーノ ―恋する旋律 (短編)
 ヴァイオリンの音色も急に弱々しくなり、
今にも消え入りそうになる。

「ねえ、ちょっと、ねえ……続きは?」

 ユマはあせって、テツロウを見やった。

 そんなユマの次の言葉を、ショウコは
涙もぬぐわずに待っている。

 テツロウが大きく息を吐く。

 続いて振りしぼるような声が聞こえた。

「自殺したんじゃない!

 ショウコさんのせいなんかじゃない
 んだ!」

 ショウコが小さな悲鳴を上げた。

 彼女にもテツロウ本人の声が届いた
のだろう。

「ショウコさん」

 テツロウはようやく自分の声で
ショウコに語りかけ始めた。

「ショウコさん、自分を責めないで。

 もう身を隠したりしないでほしい。

 あなたには本当に幸せになって
 ほしいんだ」

 その後は誰も何も言わなかった。

 ショウコは由真の隣を見ていた。

 その視線はユマの顔よりも少し高い
ところに当てられている。

 きっとテツロウを見ていたのだろう。

 テツロウは手を伸ばし、指先で彼女の
頬の涙をそっとぬぐい続けていた。
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