アンダンティーノ ―恋する旋律 (短編)
「何それ?」

 ユマの顔つきがよほど疑わしそう
だったのだろう。

 テツロウはもう一度繰り返した。

「『愛の挨拶』もアンダンティーノ
 なんだよ。

 さっき僕だって、ちゃんとショウコさん
 に気持ちを伝えられただろう?」

 全然説得力ない。

 でもまじめくさってそう言いはる
テツロウがおかしくて、ユマは声を上げて
笑った。

 あまりおかしくて、涙が出るほど笑って、
その涙をぬぐって顔を上げた時には、
テツロウの姿は消えていた。

「ったく……あいさつぐらいしていってよ」

 ユマは少しだけ顔をしかめ、それから
笑顔になった。

「わかった!

 ハルキさんに告白するよ!」

 予期せぬアクシデントが起こらないうちに、
手遅れにならないように、素直に思いを
告げよう。

 そうすれば自分にだって、ちゃんと明日は
来るはずなのだから。

 ユマは夜空を振りあおぎ、家に向かって
元気よく歩き出した。


          ** end **
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