時空奏者
「バカ」
しんどそうにそう言ったあと
ひょいっと担ぎ上げられた。
―――…一瞬の迷いもなく。
「きゃああ!」
「黙れ」
スッと風を切る音。
「いやあぁぁぁ!!」
人が走ってるとは思えないスピード。
―――お、落ちる!!
必死にしがみつきグッと目を瞑る。
走っている最中に
バン!とか、ガッシャン!とか
どうしたらそんな音が出るのかさえ
分からない音を聞きながら
ハルカは自分の命の安全だけを願った。
風の音が少し変わり
ハルカがうっすら目を開けると
いつの間にか
建物の中にいる事に気付いた。
そして、いきなり
振り落とすようにおろされた。
「っきゃあ!
…あ、危ないでしょ!!」
「っせぇな…!」
その瞬間ハルカの頭に
『姐さん』という言葉がよぎった。
それ以上何かを言うのを諦め
目の前を見ると
大きな扉がハルカを待ち構えていた。
「おっきい…」
上を見上げながら
振り落とされた時に打った
お尻を撫でた。
そんなハルカを気遣うわけでもなく
彼女は、
その大きな扉を
小さな体で押し開けた。
「…入れよ」
―――もう、引き返せない。
ハルカは非日常な一日への一歩を踏み出した。