羽菜の日記
10月4日
教室には午後の濁った空気が漂い。
横向きに遠慮なく照らす夕陽がそれをさらに生温くさせる。

柔らかそうな髪の、首のあたりをむしゃとかき混ぜて、前の席の侑哉(ゆうや)が伸びをした。

その髪の少し茶色の部分、残っていたそれは。
先週、生徒指導の先生にさっくりと切られたと笑いながら私に言った。

なんだ、茶色の好きだったのに。

そういった私はひそかに自分の勇気を褒めた。

ぼんやりとその時の顔を思い出している。
こつん、と。額に感触があって、「妄想中?」と目の前に彼のネクタイが揺れた。
「そ、幸せ中」
「わっかんねぇ」
笑いながら彼は後ろ向きのまま椅子に座りなおした。
そうしたら、少し垂れ目の笑顔が目の前。
向かい合っている。
< 1 / 5 >

この作品をシェア

pagetop