Time is gone
 川辺に着いた僕は、いつものスポットから少し外れた場所に陣取った。そうでもしなければ、マスコミや警察がわずらわしくて仕方がない。
 真冬の川で釣れる魚といえば、精々鯉くらいだ。釣れたとしても食べるわけではない。泥臭くて食えたものではない。そして何より、お世辞にも綺麗とは言えないドブ川に生息する魚を、食べようとは思えない。ここは日本で僕は一般家庭に生まれた。どこかの貧困国でも、世捨て人でもない。
 その日も釣糸を垂らしているのは僕だけだった。この寒空の下、そんな物好きは珍しい。それでも夏になれば大勢の人々が釣りを楽しみに集まる。子連れの父親に、缶ビールを片手にした中年男性、明らかにその日の食糧を狙っている浮浪者……、などなどで賑わうのだ。今は釣れないが、夏にはハゼも釣れる。
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