Time is gone
ではなぜ、僕は一人釣糸を垂らすのか。それはこの目まぐるしく転がる人生の中で、唯一そのスピードを緩めることができる瞬間だからだ。
ジョギングをする同年代の彼・彼女らの息遣い、買い物袋が擦れる摩擦音、散歩中の愛犬の鼻息と飼い主の靴音……、そんなBGMを聞いていると、僕は妙に落ち着いた。
その妙な落ち着きは、このままこの風景に溶け込み消えてなくなりたい、そうすれば全てのわずらわしいことの根源、生きるということから解放される……、そんな負の感情を喚起させた。
そして、今日も塾をさぼってしまった、と言う罪悪感が、その負の感情を助長した。
授業料がもったいないとは思う。塾が嫌いなわけでも、勉強が嫌いなわけでもなかった。……それも今としては昔のことだけど。だからこそ、やれと言われればやってきた。そのおかげで、都内でも有数の進学校に進むことができた。一年生の頃は、成績も悪くなかった。そのままいけばそこそこの国立大に入学し、そこそこの会社へ就職できたはずだ。そんな人生に、疑問を抱くこともなかった。それが当然とすら思っていた。でもその常識はある日突然、音もなく崩れ去った。
ジョギングをする同年代の彼・彼女らの息遣い、買い物袋が擦れる摩擦音、散歩中の愛犬の鼻息と飼い主の靴音……、そんなBGMを聞いていると、僕は妙に落ち着いた。
その妙な落ち着きは、このままこの風景に溶け込み消えてなくなりたい、そうすれば全てのわずらわしいことの根源、生きるということから解放される……、そんな負の感情を喚起させた。
そして、今日も塾をさぼってしまった、と言う罪悪感が、その負の感情を助長した。
授業料がもったいないとは思う。塾が嫌いなわけでも、勉強が嫌いなわけでもなかった。……それも今としては昔のことだけど。だからこそ、やれと言われればやってきた。そのおかげで、都内でも有数の進学校に進むことができた。一年生の頃は、成績も悪くなかった。そのままいけばそこそこの国立大に入学し、そこそこの会社へ就職できたはずだ。そんな人生に、疑問を抱くこともなかった。それが当然とすら思っていた。でもその常識はある日突然、音もなく崩れ去った。