Time is gone
 久々の手応えに体勢を立て直し、その興奮を抑えるようにゆっくりとリールを回した。竿を上下に振り、獲物の様子を窺う。……だがその反応の鈍さに、それが目標物でないことは、すぐに分かった。
 ゴミか……。
 それでも引き上げるしかない。僕はリールを巻き上げ、そのゴミを回収しようとした。
 そして数秒後、ゴミは徐々に水面から顔を覗かせた。それは街灯の灯りを反射し、奇妙な輝きを放っている。リールを回す僕の腕の動きと共に、ゆっくりと全貌を現していく円形の物体。まるで水平線の彼方から浮かび上がる朝日のようだ。でもそこに、神々しさはない。赤い満月のように、まがまがしい光を放つだけで。
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