Time is gone
「……時計? 懐中時計ってやつだ」
 水中から引き上げられたそれを、目の前にかざした。釣針が、上手い具合に時計のリューズに引っかかっている。僕は釣糸の揺れと共にゆらゆらと揺れるそれを、しばらくの間眺めた。
「電池切れかな? 動いてない。単なるがらくたか……」
 僕はそのとき、その時計の価値も、その能力も知らなかった。ヘドロや枯れ草にまみれたそれを、気味悪くさえ思った。それでもその汚れを落とし、小さなバケツに放り込んでいた。
 じいちゃんは骨董品が好きだから、あげたら喜ぶかもしれない。
 その優しさが、皮肉にも僕の人生を狂わせた。
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