Time is gone
「ただいま」
 玄関の扉を開けると、甘酸っぱい匂いが鼻孔を刺激した。帰宅した祖母が、夕飯の仕度をしているのだろう。
「今日の収穫はどうじゃった」
 祖父は居間で相撲中継を見ていた。
「今日は大物が釣れたよ」
 そう言って僕は、祖父の前にバケツを差し出した。
「ほう、これは中々の代物じゃ。どこの海賊船を襲って来たんじゃ?」
 祖父は愉快そうに笑った。テレビからは、横綱白鵬の勝利が告げられていた。
「まったく、じいちゃんの冗談はどこか古臭いんだよね」
「ジェネレーションキャンプか?」
「それいうなら、ジェネレーションギャップ。そんなことより、この時計どう? 結構年代を感じるんだけどなー。価値あるかな?」
 どれどれ、祖父はそう言って時計を手に取り、まじまじと観察を始めた。
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